言葉と鉛筆で描く日常風景

日常の風景~満員電車の少女


ある朝、人がぎっしり詰まった高架鉄道に乗ると、僕の横に6際くらいの少女がいた。

周囲を高層ビルのような大人に囲まれ、ともすれば押しつぶされそうになるかも知れない状況にも関わらず、この子は大きな瞳を上に向け向日葵のように微笑んでいた。

少女の視線を辿ると、僕の少し前に彼女の父親らしき男性がいた。
肌の色、風貌からパキスタンかバングラデシュ辺りの人だろうと判る。
僕が何とか少女の通れる隙間をつくると、彼女は小動物のようにはしっこく隘路をすり抜け、父親のもとへ辿り着いた。

「Thank you」と父親がしゃがれた声で囁くように言う。
黒いシャツに深緑の野球帽、頬ヒゲに白いものが混じり始めたその姿は、男性の僕が見ても魅力的だ。

少女は、子供用の、しかし彼女の年齢には高度な英文の物語の本を開くと、流暢な英語であれこれと父親に話しかけては、くすくすと笑う。
その表情は、「毎日は素敵なことで一杯!」という歓喜に満ちている。

僕が電車を降りるとき、少女の小さな手が父親の頑丈な腕に掴まるのを見た。
同時に、頭のどこかでLouis ArmstrongのWonderful Worldが流れていることに気付いた。


双子のキキ~ふたつの世界



子供の頃、眠って夢を見るのが楽しみだった。

僕にとって時空はふたつ存在し、起きている時の世界と眠っている時の世界を往復して生きていると思っていた。

だから、子供の寝顔を見ていると、この子は今どこにいて誰と会っているんだろう、とよく思う。



日常の風景~温もりと信頼

バンコクは、世界でも有数の国際都市だ。
当然のことながら、異なる文化圏の人同士で結婚する人々が数多くいる。

先日、そういう人のひとりと話をした。
同国の人と違って深いところ、人としての根本で繋がっているという。
共に暮らしていることに安息は感じないけれど、何かの折にパートナーが外泊している部屋に帰ると、空虚さを感じるそうだ。

「月並みだけれど、その何気ない幸福が大切なんだろうね」と言うと、相手は幾分困惑した 顔をした。
それとなく聞いてみると、感情という心理の浅い部分で思いを共有できないことにどうしようもない孤独を感じることがあるという。

言葉の問題もあるだろう。
センテンスは翻訳可能だが、個々の言葉に包含される概念は微妙に異なる。
それらを共有することから始めるとしたら、かなり困難な作業になるだろうし、ほとんど不可能に近いとさえ言い得るかも知れない。

9月にさっと大地を吹き抜ける風に「あ、秋の匂いがする」と微笑み合える喜びと、同じ家に帰属するという信頼感のどちらがより大切だろうか、とふと思った。
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