言葉と鉛筆で描く日常風景 野鳥物語

野鳥物語~後書き

野鳥物語 後書き

 この物語を書き始めるにあたって、この小鳥の生態を調べてみた。
 身体の特徴からシマキンバラと呼ばれる野鳥であるらしいことが判ったが、詳しい生態情報がどこにもない。
 日本では外来種にあたるので、まだちゃんとした調査が行われていないのかも知れない。それならということで、学術的な観察も兼ねてこの物語を書き始めた。

 このブログのテーマは「言葉と絵で描く日常風景」であって野鳥観察ではない。だから、学術性を兼ねると言っても、文章が堅苦しくなって文学性を失うのはまずい。かと言って、行き過ぎた擬人化も避けたいところなので、結局連載した通りの文体になった。

 物語を書き終わった今考えてみると、少年の頃愛読した、「ムツゴロウの博物誌」や「ドクトルマンボウ昆虫記」、また成人してから読んだ「雨の日の動物園」などが僕の潜在意識に残っていて、それらが作文に影響したのかなとも思う。

 学術性を兼ねるということで、その方に興味のない方々にとっては、面白くない部分が多々あったと思う。実を言うと、そういうことを書いた後は「ドオーン」と音が聞こえて来そうなくらい訪問数が下がり、気が滅入った。

 そういうなか、一部の方々が砂の中から一粒のガラス片を探すような苦労をしながら繰り返しコメントを入れて下さり、またそこまでしなくとも根気強く訪問を継続して下さった方々がいて、随分と励まされた。そうした方々に対して、改めて心より感謝申し上げたい。

 今でも、ツインズ、ロダン、そしてミゼットが初めて巣を飛び出した日のことを思い出す。そして、それを見守る親鳥のあの嬉しそうな仕草!
 小さな命たちが懸命に生きる姿を僕は上手く伝えられただろうか。

野鳥物語~最終話

25.孵化から106日目(2月22日)

 ヒナ鳥が巣立ったのは、2月22日頃のことだった。
 この時期は春節、俗に言うチャイニーズ・ニューイヤーにあたり、この国では西暦の新年よりも盛大に祝われる。「小鳥の世話があるから」としぶる僕を妻が強引に彼女の郷里へ引っ張って行った。
 数日後、僕たちが帰って来たときには、小鳥たちは姿を消していた。

 約2か月後、2羽の小鳥が10日程の間、毎日ベランダを訪れた。
 1羽は物干し台に止まって周囲を監視しているようだった。もう1羽は、慣れた方法で――つまり巣の下に吊るしてある物干しにいったん止まり、エアコンの室外機用ブラケットと壁の狭い隙間を垂直上昇して、巣の横に出る。
 そして、巣からあの「チュウチュウ」という甘えた声が聞こえて来た。そう、巣のなかでひとり鳴いているのは、あの不器用で寂しがり屋のミゼットだった。
 営巣(補修)に来たのではない、と僕は直感でそう思った。たぶん、皆と過ごした日々を懐かしむためにこの巣に立ち寄ったのだろう。
 約8分後、外の1羽がミゼットに出発を促し、2羽揃って飛び立って行った。

 「鳥の季節がひと巡りしたんだよ」と妻が言った。「子育てが終わって、恋の季節がまたやって来たんだ。たぶん、巣の補修をして、また卵を産むと思うよ」

 そういえば、親鳥が最初にこの部屋へやって来たのは去年の7月頃だった。それから、ベランダでばったり出くわすといった些細な事故があって姿を消したり再来したりという時期があり、10月末頃に抱卵を始めた。

 「冷房が使えなくなるのは痛いけど、またここに住んでくれるといいね」、と妻がベランダから東の森林を眺めて言った。

※明日、後書きを添えます。

野鳥物語~孵化から83日目(1月30日)

24.孵化から83日目(1月30日)

 ここ1週間ほど外泊を続けていた小鳥たちが、朝7時ごろ5羽(ヒナ4羽+親1羽)揃って帰って来た。
 
 3羽はベランダ横の庇に止まって陽気にさえずり、他の2羽は巣へと入って行った。後二者は、おそらく親鳥と末っ子のミゼットだろう。相変わらず、チュウチュウと甘えた声を出している。

 小鳥たちが数日続く外泊を始めたのは最近のことだ。そして、最終日の朝7時頃に一旦ベランダに戻って来て、その日から再び僕のベランダで寝起きを始める。とくに決まった間隔があるわけではないらしく、気が向いたときに別の場所で過ごすようだ。

 また、うちのベランダに滞在している期間でも、毎夕にヒナ全部が戻って来るわけではなく、数は日によって異なる。2羽または3羽というケースが多いが、時には1羽だけで夜を過ごす日もある。

 親鳥も給餌期の後半はベランダではなく別な場所に宿泊していたので、どこか他に巣があるのかも知れない。
 
 いずれにせよ、本当の意味の巣立ちが近付いている――そう僕は思っている。寂しいけれど、ヒナたちも9か月後くらいには親鳥の立場になる。ずっとここで皆と過ごすわけにはいかないのだ。

※次回、最終話です。

野鳥物語~孵化から49日目

23.孵化から49日目(12月27日)

「あのう・・・」

 閉じたカーテンの隙間から、1羽のヒナがジーッとこちらを見る。親鳥ほど長い時間ではないが、その仕草には親鳥そっくりの人懐っこさがある。

 夕刻、僕はベランダのカーテンの片方を完全に閉じ、もう一方は上半分だけを閉じるようにしている。過去、小鳥にあまり関心を払わない妻が不用意にベランダのそばを動き回って彼らを驚かせたことがあるからだ。
 
 上記のヒナは物干し台に止まり、そういう隙間からこちらを覗いている。
 「あれ、何か用かな?」と思っていると、数分後にバタバタという羽音がベランダの床辺りから聞こえ、次いでカタンとサッシ硝子にぶつかる音がした。要するに、「暗くて巣が見えないので、助けておくれ」と言っているわけだ。

 時刻はもう6時半、日没から9分も過ぎている。夢中で遊んでいて、ふと気付くと辺りが暗く、慌てて帰って来たのだろう。
 
 カーテンを開けベランダに光を入れると、ヒナはパタパタと巣へ入って行った。

野鳥物語~孵化から38日目

22.孵化から38日目(12月16日)~巣立ちの兆候

 昨日、ヒナたちは帰って来なかった。これは孵化以来、はじめてのことだった。
 かわりに、午後5時45分頃に親鳥が巣に戻って来て、5分間ほど入口から外に向かって「クピーックピーッ」と鳴いていた。
 どこか遠くで、「ピーッ」という返事が聞こえる。一応、ヒナたちとは連絡が取れているらしい。が、彼らは帰って来ない。

 その後、親鳥はいったん声がする方へ飛び立ち、10分ほどで戻って来た。そして、再び入口で「クピーッ」と鳴いていたが、やがて巣に入って静かになった。

 翌朝6時45分、親鳥がカップルで住んでいた時のように「クピーッ」と2回鳴き、単独で巣から飛び立った。

 その日、僕のベランダは不自然なくらい静まり返っていた。
 「ヒナたちは、巣立ったのかな」―午後5時半、そんなことを考えてこの原稿を書いていたら、「ピーピー」という騒々しい声と共に4羽のヒナが戻ってた。
 しかもすぐに巣に入らず、ベランダではしゃぎ回っている。驚いたことに、親でも絶対に近づかないスクリーン(網戸)に、2羽がセミみたいにしがみつく。

 折悪しく妻が外出の支度をしている最中で、彼女が洗面所に出入りする度、4羽のヒナがパタパタと飛び立っては戻って来る。

 「わー、でたでた。逃げろー」、パタパタ・・・。
 「面白かったね。もう一回!」、Uターン。
 「キャー、ドロンジョだー」、パタパタ・・・。

 このヒナたちは、野鳥としてやっていけるのだろうか、と時々心配になる。
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