言葉と鉛筆で描く日常風景 201412

野鳥物語~誕生

11.誕生

 11月8日、日曜日の早朝、ベランダが何やら騒がしい。
 たくさんの小鳥が合唱しているような声だが、どこから聞こえて来るのかが判らない。風の流れに合わせて、声が大きくなったり小さくなったり、外からから聞こえてきたり、ベランダから聞こえてきたりする。
 午後になって、ようやくその声がカップルの巣から聞こえて来るということを確認した。
 
 親鳥は、1時間毎に餌を運んできた。と言っても、何かを咥えてくるわけではない。図鑑で調べてみたところ、どうやらこの鳥は草の実をくちばしでしごいて食べるらしい。たぶん、咀嚼した実をヒナたちに与えているのだろう。

 親鳥の巣への入り方も変わった。
 外から巣の入口へは一直線なのに、いったん巣の下に吊るしてある小さな物干しに止まり、辺りを見回す。
 それから、身体を起こして垂直に上昇し、エアコンの室外機と壁の狭いすき間を通り抜け、巣の真横に出るのだ。
 その過程で、この鳥は短時間だがハチドリみたいにホバーリング(空中静止)ができる、ということをはじめて知った。

 親鳥が戻る度、「ミュウミュウ」という複数の声が巣から聞こえて来る。声の重なり具合から推測すると、4羽か5羽くらい生まれたようだった。声が途切れると、親鳥が巣の入口に姿を現す。ちらりと周囲を見渡し、クピーッと1回だけ鳴いて外へ飛び出していく。

 この作業はほぼ朝6時から午後6時まで、12時間延々と続く。たまに、6時を過ぎてもヒナたちが鳴くことがあるが、これは無視される。鳥の世界では、日没が一日の終わりなのだ。

 本日の営業は終了しました、ガラガラ・ガシャン。 親鳥より

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ニュウの泉~物語序章



物語序章

少女の名前を呼ぶと、
うん、と銀色の声で答える。

大きな目をして――それから?
小首を傾げて――何が起こるの?

まるで物語の序章に胸をときめかすように
少女の表情が華やぐ。

The prologue of a fairy tale

When I call the girl’s name –“Un” She replies in a silvery voice.

With eyes open wide in anticipation and she asks – “Then?”
Slightly tilting her head she continues – “What is going to happen?

As if to be excited with the prologue of a fairy tale,
The girl’s face brightens.

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野鳥物語~抱卵

10.抱卵

 ベランダで交尾をしているのを見てから数日ほど経った頃、カップルの行動に変化が見られるようになった。

 まず、いつも一緒のはずのカップルが、単独で行動するようになった。だから、はじめは2羽がカップルを解消したのかな、と思った。しかし、夕刻にじっと観察していると、まず1羽が帰って来て、その十数分後にもう1羽も帰ってくる、ということが判った。

 また、出掛けるときも帰ってくるときも、以前のようにワイワイと騒がなくなった。無言で羽音もたてずに出入りするので、いつ巣にいるのかも判らない。
 それから、雨が降り始める前に巣へ戻るようになった。

 一度だけ、1羽が外から戻る際に植物の種のようなものを咥えているのを見た。抱卵中のパートナーに餌を運んできたのだろうか。

 抱卵中―そう、カップルの様子から何となく卵を産んでいるのではないか、とは思っていた。しかし、それなら尚更ベランダには近づけない。変化が訪れるまで、静かに待つしかない。

 この期間、約2週間弱といったところだろうか。
 実を言うと僕は、野鳥が人の住んでいる部屋のベランダで子育てをするだろうか、とまだ半信半疑だった。だから、この単調で静穏な期間の記憶がほとんどない。

 そして・・・。

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ニュウの泉~存在



存在

水のように透きとおった少女。

目には見えないけれど、
周囲の人々の心をそっと包んで整える。

そうして、誰も気付かないうちに居なくなる。

Existence

The girl who is invisible as water.

Her existence calms people's heart unnoticed and
leaves without a trace.

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野鳥物語~雀との格闘

9.雀との格闘

 早朝から10時頃までの間、僕のベランダの周囲には十数羽の雀が集まり騒がしくなる。
 その中には、カップルの巣に悪戯をしようとする連中もいて、警戒しながらベランダの中に入って来る。当然、カップルの1羽が翼を拡げながら宙を跳んで相手を威嚇する。

 とは言え、雀の方が身体が大きく数も勝る。
 これでは不利だろうな、ということで、僕が助っ人に入る。と言っても、ベランダに向かって大股で歩いていくだけだが。

 そういう時のカップルはちゃっかりしている。
 ふつう僕がそんなふうに近付けば、彼らだって慌てて逃げるだろうはずなのに、こちらを横目で見ながら、でんっと構えて雀を睨み据えている。誰が味方か、ちゃんと理解しているのだ。

 「トムとジェリーの”ボディガード”みたいだ」、と妻がげらげら笑う。
 ジェリーがトムに襲われそうになると、ピーッと口笛を吹く。そうすると、ブルが腕をまくりながら出てきて、トムの首根っこを掴みブルンブルンと揺さぶる、という話だ。
 
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ニュウの泉~少女の声



少女の声

少女はいつも囁くように話す。
でも、それは言葉ではなく水の音。

ぴちゃっ。
心の中で水滴が落ち、ゆっくりと波紋が拡がる。

僕は目を閉じて、その彩と振動を感じ取る。

A voice of the girl

The girl always speaks with a whisper.
It's not a human sound, but the sound of whispering water.

A drop falls on my thoughts and slowly the ripple extends.

I shut my eyes to feel its color and vibration.

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野鳥物語~新しい家と新しい家族

8. 新しい家と新しい家族

 ヒナは1週間程で来なくなり、親鳥たちは巣の補修に取り掛かった。
 2日間、朝から夕方まで巣材を運び、その途中ベランダの物干し台に掛けてあるハンガーにとまって交尾もしていた。
 新しい家と新しい家族、このカップルの明日はいつもピカピカに輝いている。
 
 午前中、カップルは巣と外を行ったり来たりしているので、留守の間に素早くベランダで洗濯や食器洗いをする。
 しかし、カップルはどこかからベランダの様子を窺っているらしく、大抵作業が終わった頃に戻って来る。

 可笑しいのはその戻り方で、これ見よがしに2羽並んで、タンッと目の前のハンガーに止まる。その距離は、僕から70センチもない。
 これ、一応は警告を含んでいるんだろうな。

        ― ※ ― ※ ― ※ ―
 
 シュルルル、タンッ、ジィィィー。
 Oh... I'm sorry, I didn't mean to disturb you. (あっ、ごめん。その・・・邪魔をするつもりはなかったんだ。)

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ニュウの泉~深く沈む



深く沈む

ちゃぷん。
何かに没頭し始めると、
少女の心は深く深く沈む。

そいういう時、僕の声はニュウに届かない。
ニュウの泉は青みを増し重くなる。

ニュウが再び浮き上がって来るまで、
僕はのんびりと待つ。

Sink in a deep place

When the girl begins to concentrate intensely,
her mind sinks into a deep darkness.

My voice can not reach her and the spring of New
becomes bluer and heavier.

Peacefully I wait for her to float back up again.

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クリスマスのためのトピック

A topic for Christmas

And I would tell them that when they saw a big Christmas tree outdoors in public square or park or village green, all decorated with lights and ornaments for every one who passed by to enjoy, that idea had begun with their grandfather Fitzgerald. He felt sorry for people who couldn't afford a Christmas tree. Perhaps they didn't have a home, or had to be away from home. So their grandpa had a big tree put up in the middle of Boston Common, a Christmas tree for everyone. And the idea spread, until thousands and thousands of cities and towns and villages all over the country have public Christrams tree every year. (Times to Remember/ R. F. Kennedy)

 人々が通りすがりに楽しめるように、と公共の広場や公園などに設置された大きなクリスマスツリー。
 
 とりどりの色の光や装飾品で飾られたツリーを子供たちが見上げる度、このアイデアは彼らの祖父であるフィッツジェラルドが思いついたものだ、と話して聞かせたものだ。
 
 フィッツジェラルドは、クリスマスツリーを自分で準備することの出来ない人々―おそらくは、家のない人々、あるいは何かの用事で自宅から離れている人々―を気の毒に思った。
 それで、彼はすべての人々がクリスマスを楽しめるようにと、ボストン・コモンの中心に大きなクリスマスツリーを置いた。
 
 やがて、このアイデアは全米の市町村に拡がり、毎年、大きなクリスマスツリーが公共の場に置かれるようになった。(回想:ローズ・ケネディ夫人)

注1.R. F. Kennedy: ケネディ兄弟の母親。
注2.子供たち: 次男ジョン(米第35代大統領)・三男ロバート(司法長官)・四男エドワード(上院議員)など。
注3.Boston Common: マサチューセッツ州ボストン市にある、アメリカで最も古い都市公園。


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野鳥物語~再来

7.再来

 カップルが去って2か月半ほど経った頃、ベランダのサッシ際で米を研いでいたら、突然2羽の小鳥がやって来た。まだ、午後5時をやっと過ぎた頃のことだ。

 僕ははっとして動きを止めて、小鳥たちを目で追った。
 小鳥たちの方はというと、ほんの50センチほどしか離れていない場所にいる僕のことなんか気にもせず、クリックリッとさえずりながら当たり前のように巣に入って行った。

 そうして驚いたことに、もう1羽、カップルの後を追ってやって来た。こちらは、ちょっと小さめで体の色もカップルより明るい茶色だった。

 3羽目は、物干し台の上で「ピーピー・ピイ」と何かを訴えるように鳴いた。先に巣に入っていたカップルの一方がピョコッと巣の下から逆さまに首を突き出し、また引っ込めた。
 どうやら、それが「OK」という合図だったらしい。3羽目は、甘えた声を出しながら巣の中へ入って行った。

 はじめ、僕はこの3羽目というのが何を意味するのか判らなかった。そして少し後に、「ヒナだ!」と気づいた。
 そう、あのカップルはどこかでヒナを育て終えて、僕のベランダに戻って来たのだ。

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