言葉と鉛筆で描く日常風景 201603

東南アジア素描~ワンダフル・ワールドなラーメン屋さん


僕はほぼ毎日、夕食を近所のラーメン屋さんですませる。
むろん、一杯300バーツもするような日本のラーメンでなく、35バーツの庶民的なタイ・ラーメンだ。もう少し正確にいうと、バーミーという黄色い鶏卵麺に餃子と豚肉の切り身と青菜が入っている、バーミー・キアオという一品だ。
脂が少なく、かつ効率よく炭水化物・たんぱく質・ビタミンが採れるので、健康にすこぶるよい。

さて、僕がこの屋台を気に入っている理由は、上記の他に2つある。
ひとつは、そこに常駐する猫だ。つぶらな瞳と上品な毛並みをした深窓のペットとは程遠い、どちらかというと浮世の辛酸を舐めてきた苦労人というタイプだ。顎を撫でると、白い毛がホコリとアカでごわごわしていて、指先が灰色になる。きっと、叩けばホコリが多いに出るだろうし、洗濯好きな僕としては、一度石けんでゴシゴシと洗ってさっと天日に干したいところだ。

だが、声だけは可愛い。日替わりで様々なお客さんを回っては、前足で相手の足をピトピトと軽く叩き、目を細めながら「ミャン」とささやくように鳴く。
これで何もあげなかったら、人としてその後数日間はどうしようもない自己嫌悪と罪悪感に苛まれるだろう。
というわけで、僕はよくこの猫と豚肉シェアする。食べた量を体重で割ったら、明らかに彼の方が得をしているが、まあセコいことは言うまい。

この屋台のもうひとつのよい点は、おそらく30歳前後の、痩身で目の細いチャイニーズのような顔つきをした主人だろう。
茹でた麺をさっと網で上げたり、野菜や豚肉を盛る動作が実に洗練されていて、きっと絵にしたらよいものになるだろうなと思う。

だが、彼の真なる美点は勘定のときに表出する。まず、彼は僕が財布からどの紙幣を取り出すのか、熱い麺の湯を切りながらもちゃんと確認していて、つり銭の計算を素早く済ませる。それでいて、客が財布からお金を出す場面に決して目を向けない。そういう行為は卑しいと知っているのだ。
そして、つり銭を僕の掌にのせるまさにその一瞬、てきぱきとした彼の腕の動きが超スローモーションになり、コインはまるで羽毛のようにふわりと僕の手の平に舞い降りる。

この国ではごく普通に見る半露天のラーメン屋だが、ここにルイ・アームストロングのワンダフル・ワールドがある。


東南アジア素描~施しと相互扶助

「私は他人に施しをするほど貧しくはない。」( ツァラトゥストラはかく語りき/フリードリッヒ・ニーチェ)
 例えば、物乞いにお金をあげるという行為の背景には、良いことをして世間から認められたいという心の空虚さがある、そのような人はつまり貧しいのだとニーチェは言う。
 
 このニーチェの言葉は、僕にとって長年不可解だったし、最初に目にした時は怒りさえ覚えた。
 何故なら、日本ではそのような動機から誰かに手を差し伸べること禁忌しているし、それ以上に他人の行動をそのような歪んだ観点から見ることを忌み嫌うからだ。
 
 もともと日本では、この種の行動は施しというより相互扶助的な意味合いの方が強い。判りやすく言えば、困った時はお互い様という共同体的な習俗に由来する。
 しかし、宗教が倫理観の基礎になっている海外では、行為は近似していても明らかにそこに内包されている概念が異なる。何故なら、その種の行為は教義に付随あるいは連関する義務に属するものだからだ。そうして、どの社会においても、本来あるべき宗教的倫理を学ぶ姿勢が後退し、形骸化された行為のみが習慣として残ることがある。
 
 街角に座る物乞いにお金をあげるという行為はアジアではよく見かけるが、周囲を見回すときっとどこかにそのような行為へ向けられる冷たい、蔑んだような目に出会う。
 以前、僕の友人が大病を患ったとき、その上司が募金を始めた。治療に大金が必要な上、仕事は辞めざるを得なくなったからだという。それなら、ということで、僕も自分の絵や詩を好きに使ってくれていい、と申し出たところ、よく理解できない理由をつけて断ってくる。変だなと思っていると、友人が「あれは、他の部下に対するパフォーマンスなんだ。だから自分より目立つことをする人間を受け入れるわけがない」と教えてくれた。
 また、孤児院に寄付をしに行ったとき、同行した知人から「すっきりしたかい?」という解し難い言葉を受け取ったこともあった。子供のような笑顔をしているので、嫌味で言っているわけでもなさそうだった。
 
 上のような経験から、海外では、僕が冒頭のニーチェの言葉から感じたふたつの側面が現実にあり得ると判り、極めてパーソナルなものを除き、この種の活動から身を遠ざけるようになった。

日常の風景~説得力のある遅刻連絡



「スミマセン、今日ハ遅レマス」

「起キナイデス」

という言葉と共に送られてきた写真。

スタッフ一同、「うーん、なるほど・・・」と納得。

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