言葉と鉛筆で描く日常風景 201605

東南アジア素描~タイ・マッサージ2


前回書いたように、西洋医学に基づくマッサージの目的は血液循環の改善にある。
解り易く言えば、度重なる疲労で拘縮した筋肉を圧したり揉んだり、あるいは擦ったりしながら蓄積した老廃物を静脈へ押し流し、新しい酸素と栄養素を招き入れる、というイメージだ。

僕を教えたのは外科の医学博士だったが、彼は筋肉を圧する場合、必ず筋繊維に沿って指や掌を動かすように繰り返し言った。そのようにして血液循環を改善させるためだ。

さて、この国のマッサージ師には正式な免状を持つ人から見様見真似でやっている人まで様々だ。気をつけなければならいないのは、必要な勉強をせず、肘などを使って安易に筋肉をごりごりと圧迫する人だ。

筋肉をごりごりというのは、解剖学的にいえば、疲労によって固くなった筋肉を筋繊維と直角方向に圧している状態を言う。
このようなことをしても血行循環には役立たず、寧ろ筋繊維を傷つけを炎症をもたらす。
結果として、数日は寝違いでも起こしたように首や肩が拘縮し(強張り)、辛い思いをすることになる。

背中、とくに肩甲骨周辺には小さな筋肉が角度を変えて複雑に重なり、その構造をもって肩甲骨を巧みに回旋させている。
ある筋肉は肩甲骨の上に薄く拡がり、別の筋肉は肩甲骨の下に入り込んでいる。
このような部位は非常にデリケートで、指先で個々の筋肉の状態を探りながら適度な方向と力で施術しなければならない。

良いマッサージ師を見つけるのは、なかなか難しい。誰だってそういう人のことは、秘密にしておきたいものだからだ。

東南アジア素描~タイ・マッサージ


タイ・マッサージは今日、世界にその名を馳せているらしいが、ここ本場ではお店によってそのスタイルはまちまちだ。
たとえば、胸元が幾分大きく開いたTシャツを着た女性がいる眺望重視型、どうも施術が素人っぽいが笑顔と指先の温もりがいい下町ふれあい型、そして病院のリハビリよりはるかに効果のある腕をもつ孤高の職人型まで様々だ。

マッサージの施術は、大きく分けると圧迫法・把握柔捏法・軽(強)擦法などがある。
圧迫法は、文字通り筋肉を骨床に押し付けてほぐす方法である。次に、 把握柔捏法は筋肉を指全体(指先ではない)で骨床から持ち上げて揉みほぐす方法だ。最後に軽擦法は掌全体で軽く擦るようにして血行を良くする方法だ。

タイマッサージを観察していると、自身の骨や関節の骨端を利用した圧迫法が多いように思うが、これは当たり前だろう。1人あたり1~2時間の施術だ。 把握柔捏法などを多用していたら身が保たない。

マッサージには、上記と別に基本理念に基づく大きな分類方法がある。いわゆるツボの概念を採用する東洋医学に基づくものと、血行循環を目的とする西洋医学に基づくものだ。
僕は東洋医学を学んだことがないのでよく判らないが、西洋医学に基づくマッサージは,基本的に筋肉に溜まった老廃物を排出し、新鮮な血液(酸素と栄養)を招き入れることで硬直化した筋肉を活性化させるというものだ。
タイは中国系の文化を多く採り入れているが、マッサージに関する限り、西洋医学の理論に基づいているように思う。

さて、僕がこの国に来て間もない頃、20代後半くらいの台湾人の若者に出会った。
彼は、「タイマッサージなら、若い娘にしてもらわないと意味がない」としきりに言った。
当時の僕は、行く場所と目的を間違えているのではないかと単純に思ったものだが、実際に体験してみると、なるほど、30歳前後の女性の指と声のトーンには独特の癒しがあることに気づいた。おそらく、家庭をつくり子を育むという年代だからなのだろう。

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