言葉と鉛筆で描く日常風景 帰り道

帰り道

大通りから脇道に入る。
そこは両側から生い茂る木々の枝のトンネルになっている。

数十メートルも進むと通りの喧騒は消えていき、代わりに木々の香しい、しっとりとした息吹と、カエルや鈴虫、それに夜更かしの小鳥たちの声が空間を満たす。
不思議なことに、それらの生き物たちの発する声が喧しくなるほど、空間の静寂さが際立つ。
漆黒と静寂があるからこそ、小さな生き物たちの繊細で澄んだ命の明滅がこんなにも素敵に空気を震わすのだと気付く。

風が吹く日には梢の葉叢が互いに擦り合い、波状に騒めく。
頬や肩を撫でる風のなかで、僕はあたかも水流に身体を浮かべているような安穏とした心地になる。

トンネルの出口では樹木の枝葉がまばらになり、星々を散りばめた宝石箱のようなパノラマが現れる。
冬の清浄で森閑とした空を見上げると、子供の頃から大好きなオリオンが天空に浮かぶ。
なんて美しい光景だろう。

僕はその様な異次元間を繋ぐ不思議な道を通って、自身の属する世界へ帰っていく。
その世界では、僕は空・風・土・木々・その他の様様な生き物たちと共に生きている。
言葉を換えて言えば、僕たちは相互に関係しあって生きている。
僕は、アスファルトの上に落ちた花びらのように何処からも切り離された孤独な存在ではない。
そのことがとても幸せだ、と思う。

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